Back Number
人気ブログが集結!
MSC人気コンテンツ GALコレクションはコチラ♪
MSC COLUMN
MSCコラム
#1 「レーシング・マシン製作」の舞台ウラ
TEXT / 岩崎 祐一郎
ロードレース」の世界を例にとって、地道で過酷なレースの舞台ウラを皆さんにお伝えするこのコラム。モータースポーツの華やかな部分だけではなく、チームが地道に繰り広げている“陰の努力”を含めて見てみれば、今までとはひと味違ったレース観戦が楽しめるハズだ!
TOP > MSCコラム > #1 「レーシング・マシン製作」の舞台ウラ
次へ
「かっこいい!」、「派手!」、「キレイ!」など、一般的に「ちゃらい」イメージを持たれがちなモータースポーツの世界。確かにテレビで観戦すると、ドライバーの横でパラソルを持ったレースクイーンがにっこりと微笑んでいたりして、画面からでは緊張感がイマイチ伝わり難いのかもしれない。しかし、これはあくまで「お披露目のための一瞬」であり、この晴れの舞台を迎えるまで、各レーシング・チームは皆さんの目に触れない場所で、血のにじむような努力をし続けているのだ。


スポンサーを探したり、タイヤや車両のメーカーと交渉したりと、プロフェッショナルなチームには、毎年レースに参加するために乗り越えなけれならない問題は山のようにあります。このチームを運営するうえでの苦労については、いずれ別の機会にでも触れるとして、今回はレースに必要不可欠な“マシンの製作”にポイントを絞ってお話しようと思います。
マシンの製作とひとことでいっても、タイヤのマッチング、部品の改良、セッティング、ドライバーの好みに合わる・・・などなど、さまざまな段階を経て作業を進めなくてはなりません。誌面の都合もありますので、ここでは、一般的な作業工程に従って要点のみを説明していきます。

レギュレーション(規則)について


マシンの製作は、出場するレースのレギュレーション(規則)に従って行わなければいけません。「レギュレーションとは何ぞや?」とギモンをお持ちの人もいるかと思うので、簡単に説明しておきます。
レース(競技)には大きく分けて、『国内競技』(※注参照)と『国際競技』(※注参照)の二種類があります。国内で行われているほとんどの公式レースは『国内競技』に属します。国内競技には規模の大小を問わず、実にさまざまな種類、カテゴリーが存在し、それぞれにレギュレーション(※注参照)があります。
このレギュレーションを明文化したものが、JAFが毎年発行している『国内車両規則』(※注参照)。「排気量は何cc以下」、「タイヤは何インチ以下」、「この部品は使ってはいけない」などなど、こと細やかに規定されているのです。
すべての規定をクリアすることがレース参加の必須条件。レギュレーションに適合することを前提にして、全てのパーツ製作がスタートします。
※注)
国内競技:JAF(日本自動車連盟)の統括している競技やレース全日本選手権フォーミュラ・ニッポン・全日本ラリー選手権等。

国際競技:FIA(国際自動車連盟)の統括している競技やレースF1[Formula One]・世界ラリー選手権等。

レギュレーションレース・競技に関する参加資格や細かい規則およびルール。レースの運営に関する『スポーティングレギュレーション』と、技術面を規定する『テクニカルレギュレーション』がある。また、参加後に違反が発覚すれば、失格やペナルティが科せられることもある。

国内車両規則:国内のモータースポーツを統轄するJAFの定める競技車両に関する規則。車両の改造や製作の度合いによって、細かく分類されている。この規則は、毎年小変更されるので、競技に参加する人は毎年JAFの支部で当該年度版の「国内競技車両規則」を購入し、自分の車が規則に適合するかを確認しなければならない。

ボディ製作


どのチームでも、はじめに取り掛かるのがボディの製作です。
上級のカテゴリーでは一からフレームを設計してボディを製作する場合もあります。しかし、初級〜中級のカテゴリーにおいてレギュレーションでボディに手を加えることが認められている場合、ボディ製作とはもっぱら市販車のボディを強化する、「補強」を指しています。市販の状態でも十分頑強にできているものをわざわざ強化するのは、安全性を高めると同時に、走行安定性を高める狙いがあるからです。レース中にボンネットがメリメリと剥がれているようでは、とてもじゃないけど限界を超えた走りなんて不可能!ボディ剛性の良し悪しでクルマの戦闘力が決まるといっても過言ではないほど、細心の注意を必要とする部分なのです。
ここで、ボディ製作の初歩の初歩、「補強」の具体的な方法を挙げてみましょう。
スポット溶接

クルマのボディは何枚もの金属を溶接で繋ぎ合わせて構成されています。この合わせ目の溶接を、さらに強化する補強技法が『スポット溶接』。初級〜中級カテゴリーにおいては特に有効な手段です。
ロールバー

さらに強度を増すために、『ロールバー』を溶接でボディに取り付けます。ロールバーはボディ強化にはもちろん、横転などによるアクシデントからドライバーを守る役目も果します。
ウレタン注入

ボディの空間となっている部分に発泡ウレタンを流しこみ、ボディの剛性のUPや静粛性のUP、制振の作用等得るもの。一般的にはサイドシル部分に注入します。

いずれもボディをシャーシから外して作業しなければならず、補強が完成しても、今度は塗装を一からやり直さなければならない。これだけの手間を要して、過酷なレースに耐えうる強いボディがやっと完成するのです。

サスペンションのセッティング


※A

※B

※C

※D
クルマの走行性能を決めるのが、サスペンションのセッティングです。サスペンションには、市販されている車両のモノから、F1で使用されているような特殊なモノまでさまざまな種類がありますが。公道用であれサーキット用であれ、サスペンションは路面の状況を捕らえ、かつタイヤのグリップ力を確実にドライバーに与えるという非常に大切な役割を担っています。このサスペンションをクルマの重量や性能、性質に合わせて、いかにセッティングするのかが、“速さ”のカギを握っているのです。

サスペンションには、「伸び」と「縮み」、ふたつの運動があります。クルマ初心者は「伸びってナニ?」、「縮みってナニ?」、と疑問を感じると思いますので補足しておきましょう。

たとえば、運転していて急にアクセルを踏み込むとクルマの前側がポンと跳ね上がります(ノーズアップ)。反対に急ブレーキを踏むと前側がガクンと下がります(ノーズダウン)。この車高が上がったり下がったりする運動が、「伸び」と「縮み」です。

伸びる時に働くのがショックアブソーバ(※図A)と呼ばれる部品で、反対に縮むときは、スプリング(※図B)がメインの働きをします。ショックアブソーバスプリングは、硬さを自在に調整する事ができるので、それぞれのバランスを加減してクルマの走行性アップを図ります。

サスペンションをボディに結合する部品にも、速さの秘密が隠されています。乗用車の場合は、結合部分にアームと呼ばれる棒状の金属製部品(※図C)と、取り付け部にゴム製の部品が付いています。このゴム製部品はボディへの衝撃を和らげて乗り心地を良くする“クッション”の役割を果しています。

しかし、この“クッション”がレースにおいては“速さ”を妨げてしまうのです。レース用のセッティングは「快適性」よりも「走行性」が重要。クッションがあることで、路面状態がダイレクトにドライバーへ伝わらなくなってしまうのです。ですから競技車両は、結合部のゴム部品を『ピロボール』(※図D)という金属製のベアリングに換えています。よく走り屋やマニアの会話にでてくる、「フルピロの足」の正体は、実はこのことだったんです。

サスペンションひとつをとっても、実にいろんなテクニックが用いられているのがご理解いただけるかと思います。しかし、ボディとサスをイジッただけで勝てるほど、レースは甘くはないのです!

ギア選択


レースで勝つには、コースに合ったギアをセレクトすることも重要です。
「ストレートエンドで5速7000回転、あと8mアクセルを踏んでから6速に入れるか、そのまま5速で回転リミッターにあてながら踏むか・・・」、といった選択を迫られることが、実際のレースではよくあります。
コース特性によってもドライバーがどちらを選ぶのかは変わってきますが、仮に6速にギアを上げたとしても、すぐに減速しなければならないようなコースでは、シフトダウンでせっかくのエンジンパワーがロスしてしまいます。それならばアクセルを踏みながらエンジンパワーを維持して、コーナー出口で素早く立ち上がれるようなギア設定にすればいいワケです。
つまり、このコースでは高速用のギアよりも、中速域でトルクを目いっぱいに引き出すギア設定がベストなのです。エンジンのパワーバンド(エンジンのパワーが有効に使える回転数の範囲)に合わせて、コースにジャストマッチのトランスミッションギア(※注参照)と、デファレンシャルギア(※注参照)を選択、組み合わせることで、コーナーリングの最中もアクセルポイントで効果的にパワーを引き出すことができるようになります。
ギアのセレクトがうまくハマったクルマとハズしたクルマでは、ラップタイムはもちろん、周回を重ねるごとに明確に差が開いてきます。
※注)
トランスミッションギア:変速機のこと。エンジンの回転をそのままタイヤに伝えたのでは、車はうまく発進出来なかったり、高速運転が出来なかったりする。そこで、トランスミッションを介してエンジンの回転をドライブシャフト側に変化させて伝えることで、車の走行状態に合わせた力の伝達を行うのがトランスミッションである。通常は2枚1組のギアで回転数を変換し、3〜6通りのギアの組み合わせで変速を行う。トランスミッションはクラッチの直後に配置され、エンジンの回転数を変化させた後、ドライブシャフト側に出力する。基本的に手動操作でギアチェンジするMTと自動で行うATの2種類がある。

デファレンシャルギア:FR車の場合、プロペラシャフトの回転をドライブシャフト(車軸)の回転へと90度方向変換するギアが必要になるが、一般的にはその装置がデファレンシャルギア(デフ)と呼ばれている。このギアは動力の向きを変えるだけでなく、トランスミッションでは減速しきれない分を減速する働きもしているが、これを正式にはファイナルドライブギアという。本来デファレンスとは「差」のいみで、ディファレンシャルギアファイナルドライブギアの内部にある差動ギアのことをいう。

車両製作をざっと説明してきましたが、ここで例として上げたのは、あくまでほんの一部分。実際にはどこのチームも、「ここまでするか!?」というほど、途方もない時間と労力、お金を要して車両を製作しています。車両を繰り返しテストして、煮詰めに煮詰めてやっと本選に出場できる・・・。ドライバーもクルーも、チームが一体となって、地道に努力し続けているのです。
このコラムではこれからも、レースの知られざる部分、見えざる部分にスポットを当てて、皆さんに紹介していこうと思います。お楽しみに!


岩崎 祐一郎(いわさき ゆういちろう)

昭和60年よりモータースポーツに関わる。当初、某ワークスチームのサービススタッフとして、全日本選に携わり、以降、クラブマンレースの監督、GT選手権の監督などの経験者。過去に某クルマ雑誌にも、コラムなどを連載していた。自らもドライビングをし、鋭い観点から、スクーリングなどの展開もおこなっている。モータースポーツをこよなく愛し、もっと広く、沢山の人に真のモータースポーツの楽しさを理解してもらえるよう、日々努力している車バカである。
次へ
MSC TOPへ | MSCコラム TOPへ



ページTOPへ
ログイン 個人情報保護方針 サイトポリシー リンク/広告掲載について インフォメーション お問い合わせ
  Copyright © 2008 MSC Corporation All Rights Reserved.