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EXPERT STORY
エキスパートストーリー
レース界の番長、かく語りき (3/8)
レーサー / 黒澤 琢弥
2000年、メーカーのバックアップがない苦しい体制にもかかわらず、『FedExチャンピオンシリーズ(CART)』にサムライ魂で斬り込んだ番長。イマイチ情報が少ない?アメリカン・オープンホイール?という世界で、番長はいったい何を見てきたのか?
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エキスパートプロフィール
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<strong>黒澤</strong> 琢弥 イラスト

黒澤琢弥インタビューその3
番長 in アメリカ-1 CART参戦

>MSC(以下省略):黒澤さんのキャリアの中で最大のチャレンジ、2000年に参戦したCARTのお話を伺いたいと思います。レーサー、黒澤琢弥が一番輝いていたときですよねぇ。あっ、もちろん今も輝いていますけど・・・。

黒澤(以下省略):ドライバーもファンも「F1」一色で、誰もアメリカのレースになんて目を向けていなかったときから、オレは「インディカーに乗りたい!」ってずっと思い続けていたからな。願いが叶ってマイケル・アンドレッティファン-パブロ・モントーヤといったメンツと勝負できたのは、誇らしいことだと思っているよ。

>自動車メーカーのバックアップがないという苦しい体制にもかかわらず、いったいどんな経緯で参戦までこぎ着けたんですか?

偶然にスポンサーになってくれる会社が見つかったんだよ。その会社にはアメリカの市場に進出したいというビジョンがあって、オレにはCARTで走る夢があった。お互いの目標が「目指せアメリカ!」なら協力してがんばりましょうってことになったんだよ。周到な計画や根回しもなくスカッと決まった。

>拍子抜けするほどあっさりしてますね。

スポンサーと出会ってわずか1ヶ月、ミーティングも10回くらいしかしていないのに、予算8億円のプロジェクトにGOサインを出してくれた。もちろん腕には自信があるし、実績も残してはいたけど、あのときはツキもあったと思う。奇跡に近い出会いだったけど、それがなければCARTには行けなかったよ。

CART:『Championship Auto Racing Teams』、略してCART。アメリカン・オープンホイールのトップカテゴリー・レースの名称、及びその運営団体。2003年、経営悪化のため破産。 CARTの名は消滅したが、2004年以降も『Champ Car World Series』と銘打ったシリーズが継続されている。

インディカー:アメリカのトップフォーミュラ。もともとはインディ500を走るマシンのことを指す。

マイケル・アンドレッティ、ファン-パブロ・モントーヤ:2000年当時、CARTで活躍していた大物レーサー。このふたりにまつわるエピソードも近々掲載予定!
<strong>黒澤</strong> 琢弥 写真

>実際にアメリカで走ってみて、日本との違いに驚いたことや戸惑ったことってありましたか?

アメリカではレースもエンターテイメント・ショーのひとつだから、ファンサービスやスポンサー接待が徹底しているね。走ること以上に握手やサインに応じることが大切みたいなノリがある。日本みたいにチームやレーサーが「近寄るな!」みたいなピリピリした空気を発しているなんて、向こうじゃまずあり得ないよ。

>ところ変われば何とやらですね。

ホスピタリティの面はもちろんだけど、レースそのものもFポンとは全然違う。オーバルコースはスピードも高いし、エスケイプもない。スポーツというよりはスリル、スピード、サスペンス。コーナーでは横からのGがハンパじゃないから、体内の血液がグワッて外側に寄っていくのがわかるんだ。ストレートでまたズズッと戻る。血液が戻るときってシビレた足がジーンとしてムズ痒くなる感覚に似ている。それが数秒ごとに全身を襲ってくるんだから、絶対カラダに悪いよな。

>ウワサに聞くオーバルの横G! ドドンパだって血液が動くのなんて感じませんよ。

テストで初めてオーバルを走ったときに驚いたのが、コーナーのたびにコンタクトレンズが目の中でスーッと横に流されていくんだ。舞台の幕みたいに段々と視力が落ちていく。コーナーを抜けるとまたスーッと視界が戻ってくる(笑)。後で知ったんだけど、オーバルでのコンタクト着用は危ないから禁止されていたんだ。慌てて日本に帰ってレーザー手術を受けたよ(笑)。

>スピードの限界に挑むというよりは、肉体の限界に挑むレースって感じですよね。

まさに肉体的には限界ギリギリ。走っているドライバーが気を失う危険性があるって理由で、1〜2年前に新しいオーバルコースが使用禁止になったことがある。バンク角がありすぎて、人間が耐えられる限界を超えたGが発生するらしい。24人のドライバーの内14〜15人がめまいとか、意識が遠のくって訴えて、レースイベントが中止になっちゃった。

<strong>黒澤</strong> 琢弥 イラスト
>お話だけで目がクラクラしてきましたよ。限界ギリギリのGって、いったいどんな感じなんでしょうか?

乗用車だと最大でも1.2Gくらい。太いタイヤを履いたクルマでコーナーを攻めても、自分の体重にプラスアルファの付加がかかる程度。Fポンだとブレ−キングや加速時に瞬間的に3〜4G、体重が60kgだったら180kg以上の付加がかかってくる。それが、CARTのハイスピードオーバルだと7G、420kg! コーナーを抜けるまでの7秒間、巨漢の力士ふたりにドンと乗られているような感じかな。

>そりゃキツイ! フツーの人だったらグッタリしちゃいますよ。

あのGに絶えるカラダがないとアメリカじゃ難しいよ。CARTやってるときは走るたびに鍛えられちゃって、首周りが52センチもあったんだ。頭のサイズは53センチなのに(笑)。広背筋や僧帽筋もパンパンに張って、逆三角のマッチョボディになってくる。でも今の首周りは42センチ。ツーリングカーでは筋力はそれほど必要ないからな。CARTをやめたらショボ〜ンと萎んじゃったよ。

オーバルコース:日本のオートレース場を大きくしたような楕円形のクローズドサーキット。アメリカではポピュラーなコースレイアウトだ。

エスケイプ:エスケイプゾーン。トラブルやコントロールミスなどで走行困難になったクルマの退避用スペース。コンクリートウォールで周囲を固めたオーバルコースにはエスケイプゾーンがなく、些細なトラブルやミスがクラッシュに直結してしまう。

G:重力加速度の単位。実際の重量に対して何倍過重されているかを現し、「2G」は重量×2、「3G」なら重量×3の重さが加わっていることになる。

横G:コーナーリングの遠心力によって発生する横向きの力、「コーナーリングフォース」のこと。「サイドフォース」と呼ぶこともある。

ドドンパ:発射からわずか1.8秒で最高速172km/hに到達。4.25G(!)というF1も真っ青の加速を誇る、富士急ハイランドの名物コースター。
エキスパートプロフィール
取材日:2005年6月16日
連載期間:2005年7月7日〜8月25日(全8回)


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