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エキスパートストーリー
PORSCHEMANIA (1/4)
910レーシング オーナー兼監督 / 安永 孝
SUPER GT選手権に参戦するポルシェ・プライベーター、「910レーシング」のオーナー兼監督である安永 孝氏がエキスパートストーリーに登場!華やかな表の顔からは想像できない、レーシングチームのリアルな姿に迫る!?
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エキスパートプロフィール
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ドライバーやエンジニアなど様々なスタッフが働くレーシングチームにおいて、全てを取り仕切っているのが他ならぬ「チーム監督」だ。でもインカムで指示を出すサングラス姿の人…程度の認識はあるものの、チーム監督が具体的にどんなことをしているのか、実はよく知らなかったりもする。 そこで今回は、「910レーシング」のオーナー兼監督である安永 孝氏に「監督って何?」という初歩的な部分から、チームを運営する方法まで詳しく聞いてみた。
安永孝 写真

安永孝インタビューその1
「酸いも甘いもポルシェとともに」

> MSC(以下省略):本日はよろしくお願いします!

安永(以下省略):こちらこそよろしくお願いします。

> まずは910設立から現在までのことを教えて下さい。

もともとクルマが趣味で、'90年の1月にとりあえずクルマ関係の会社を立ち上げてみたんです。

> 「とりあえず」で会社設立ですか!?

962Cを買うにあたって会社としてレース用の車両をチームにレンタルしたり、部品を販売したりできないかと考えたんです。当時はそういうことをやっているところがなかったんですよ。ちょうど岡山のTIサーキットをはじめ日本中にサーキットが増え出して、アマチュアの方もポルシェでサーキットを走るようになった頃でもありました。

> いわゆるポルシェ屋さんってことですか?

ディーラーとは違います。ポルシェでは、市販車とモータースポーツとで部門が別けられていて、市販車部門はディーラーを対象に、モータースポーツ部門はポルシェのクルマを使ってレースをする人達を対象にそれぞれ運営されているんです。ディーラーやインポーター経由では、モータースポーツ関係の車両やパーツは入ってこないんです。

910(ナインテン)レーシング:安永氏が率いるプライベート・レーシングチーム。スーパーGT選手権GT300クラスにポルシェ993RSRや996GT-3Rで参戦している。

962C:85年からポルシェがグループCに投入したレーシングカー。
安永孝 写真
> ではポルシェ・モータースポーツの窓口的な役割りを目指していたんでしょうか?

当時のポルシェは閉鎖的で、「売ってくれ」と押しかけても、なかなか売ってくれなかったんですよ。そこでウチの会社が窓口になってレース車両や部品をチームに納品していこうと思ったんです。僕も962Cを買ってやっとポルシェの口座が持てたんです。120万マルクくらいしましたけど、それくらいしないとお付き合いしてもらえなかったんです。

> 120万マルクというと・・・いっ、一億ン千万円!

バブルの時代でしたからね。962Cを買ったのは、'89年の1月でまさにバブルの絶頂期。そこからガラガラと崩壊していったんですけど。アレを買っていなかったら、僕はもっと幸せになっていたと思いますよ(笑)。

> レンタル事業は軌道に乗せらなかったんですか?

レースの世界のことは右も左もわからなかったので結局は失敗に終わりました。レンタルしてもお金がもらえなかったり、その上、クルマが取られそうになってしまったんです。

> 億万単位もの大枚を叩いて買ったクルマが、いわゆる取り込み詐欺の被害に?

クルマをイギリスの某チームに貸し出したんですけど、そのチームがいい加減で手付金程度のお金しか払ってくれなかったんです。しかもチームの経営が危なくなったのか、クルマを取り込まれそうになってしまいました。何とか取り返しましたけどね。


安永孝 写真
> 相手は海外のチーム。どうにも手が出せない状態から、どうやって取り返したんでしょうか?

ポルシェに相談しました。ネットワークを使っていろいろと助けになってくれたおかげで無事に返ってきたんです。でもエンジンをオーバーホールしたりボディのペイントやステッカーをキレイな状態に直したら、無茶苦茶にお金がかかってしまいましたよ。

> 返ってはきたものの、結局は大損になってしまったようですね。

スポンサー契約をした企業が倒産してチームにお金が入らなくなって、結局チームが夜逃げしてしまって、挙句にはメンテナンスを請け負っていたガレージが大損したりと、そんなことが日常茶飯事の時代でしたからね。潰れたレーシングチームなんていくらでもありますよ。

> そんな苦労をしていながら、今も続けているのは凄いですね。

それも、もういい加減にしようかな、と(笑)。


安永孝 写真
> レンタルからチーム運営に乗り出したきっかけは何だったんでしょうか?

GT選手権が始まって2年目の'95年に、知り合いのドライバーから「クルマを貸してくれないか?」と頼まれて、964のカップカーを貸し出したのがレースに参戦するようになったきっかけです。

> それ以前に安永さん自身がドライバーとしてレースに参加されたご経験は?

自分で運転してレーシングカーを凄いスピードで走らせたいとか、当時からそういった気持ちはなかったですね。ボク自身はドライバーには向いていないと思っていますので運営側にまわったんです。最初はレースのことはまるで知りませんでしたよ。

> レースの経験が皆無なのにも関わらず、手探りで立ち上げたというのは実に凄いことですよね。

本当はこんなに長く続けるつもりはなく、最初は1年間程度の予定だったんです。たぶん最初の年にチャンピオン争いをしたのがいけなかったんでしょう。すっかり味をしめてしまいました(笑)。

964:ポルシェ911。'89年のモデルチェンジでの形式。
安永孝 写真
> 参戦初年度からチャンピオン争いに絡むなんて、空前絶後の偉業じゃないですか?

まだどこも持っていない993のカップカーを買って、8月の富士からそれまでの964に換えて投入したら、なんと9月の菅生で優勝したんですよ。それからはドップリ浸ってしまって翌'96年には993RSRを買って、「910レーシング」というチーム名でエントリーし始めました。

> いっぺん憶えた勝利の美酒がヤミツキになってしまったようですね。

'96年は初戦にクルマが間に合わず、2戦目からの参戦でしたが、またもやいきなり優勝してしまったんですよ! 993RSRというレーシングカーは、当時はウチとタイサンしか持っていなかった最新型のレーシングカーだったんですが、届いてからほとんど何も手を加えていないいわゆる「吊るし」の状態でも勝ちましたからね。ホントびっくりしましたよ。

> レースへの挑戦は順風満帆な滑り出しだったんですね。

クルマにトラブルが出たり壊れたり、ぶつけられてリタイヤしたりとか辛いこともありましたが、成績が良かったので気分もノッていて、当時はそれほど苦には感じませんでした。 でも今となっては苦労の方が圧倒的に多いですよ。夢のない話で申し訳ないんですけど、やはりお金のことが一番辛いです(笑)。

993:ポルシェ911。'94年のモデルチェンジでの形式。

カップカー:ポルシェ・カレラによるワンメイクレース、「カレラ・カップ」用として市販車をベースにビルドされたレース車両。

993RSR:ルマン24hにも出場できる、ポルシェの純正レーシングカー。

「吊るし」:買ったときのままの状態。いわゆる「どノーマル」。本来は吊り下げて売られている既製服のことを指す。


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